こんにちは!今日のブログはプロトコルラボ創設者であるJuan Benetによる講演の要約です。
Filecoinネットワークでは、ガスの概念は、特定のトランザクションを実行するために必要な計算リソースを測定するために使用されます。これらのリソースのコストを支払う必要があるため、誰がこれらのコストの負担を負うべきか、有限のリソースを消費するトランザクションをどのように優先させるべきかなど、多くの決定が必要になります。
例えば、ファーストプライス・オークションを行うことも一つの方法かもしれません。このようなシステムでは、ブロックチェーン上でトランザクションを実行したいアクターがブロックマイナーに入札を提出します。マイナーは、マイニングされたブロックに関連するトランザクションが含まれている場合、これらの入札を手数料として徴収します。ブロックのサイズやブロックが消費することができるトランザクションのガス量に上限がある場合、マイナーは収集する手数料を最適化するようにトランザクションに優先順位をつけます。
概念的には単純ですが、このようなアプローチには多くの欠陥があることが示されています。ファーストプライス・オークションは操作が複雑で、入札者による多額の過払いを招く可能性があります。また、ネットワークが混雑している間は、望ましくない行動につながる可能性があります。
上記の詳細なシステムはまた、ネットワークのマイナー以外の参加者が各取引を処理するために必然的にリソースを消費するという事実を無視しながら、ガス料金の全額をマイナーに報いるものです。
EIP-1559
Ethereum Improvement Proposal (EIP) -1559は、これらの多くの問題に対応して開発された規格です。その主な革新点は、各ブロックに関連付けられた基本料金(ガスの単位あたり)の導入です。この料金は、ネットワークの混雑状況に応じて増減し、ネットワークトラフィックを目標値に戻します。
EIP-1559では、トランザクションの作成者は、料金の上限(このトランザクションが含まれるようにするために消費されるガスの単位当たりの最大値)を指定します。料金の上限がブロックの基本料金よりも小さい場合は、ブロックに含めることはできません。トランザクション作成者はチップ(これもガスの単位ごとに)も指定します。
このチップはブロックのマイナーによって徴収されます。単一価格のオークションの代わりに、トランザクションの作成者は、a) 料金の上限とb) 基本料金にチップを加えて、トランザクションに使用されたガスに乗じた金額を最低でも支払うことになります。基本料金からの収益はすべてバーン、デフレ圧力が発生し、ネットワーク全体が取引を実行するために費やされた資源を補うことになります。
マイナーは、a)チップとb)料金キャップから基本料金を差し引いた額に、取引で使用されたガスを乗じた額の最低額を得ることになります。
このスキームでは、トランザクションの作成者は、通常よりもはるかに少ない支払いで、優先度の高いトランザクションをブロックチェーン上で確実に実行することができます。
EIP-1559とFilecoinの関わり
EIP-1559には、Filecoinの設計と一致する特性があります。
・効率性
EIP-1559は、ガスの設定と会計処理のためのより効率的なモデルを概説しています。
・ユーザーエクスペリエンス
見積もりと料金設定は、ファーストプライス・オークションに参加するよりも比較的簡単です。
・クリティカルなメッセージスループット
FilecoinのWindowPostメッセージは重要であるため、混雑に強い方法で処理する必要があります。EIP-1559は、このようなメッセージに対して、より高い信頼性とスループットを提供します。
・取引のためのネットワークへの報酬
ネットワーク全体がトランザクション処理のコストを負担しているため、それに応じて補償されるべきです。
これらの理由から、FilecoinはEIP-1559をコアプロトコルに少しだけ取り入れました。Filecoinはチップセットを使用しています。トランザクションは実行される前にチェーン上で実行され、実際のガス使用量は実行されるまで判断できません。そのため、Filecoinでは、ユーザーはトランザクションのガス使用量を推定して提供する必要があります。インセンティブを適切に調整するために、一定のマージンを超える過大評価は過大評価バーンによってペナルティが課せられます。
現在の実績と結論
EIP-1559が実装され、現在、ネットワーク取引の結果として、1日あたり約100k~150kのFILが消費されています。実装により、少なくとも2つの重要な成果が得られました。
・高価値トランザクションのための高速レーン
時には、ストレージのオンボードメッセージが、より時間に敏感なWindowPostメッセージの価格を下げてしまう恐れがありました。しかし予想通り、EIP-1559を統合したことで、Filecoinの参加者は、常に法外な価格を支払うことなく、この混雑をナビゲートするための簡単なメカニズムを利用できるようになりました。
・ネットワーク容量管理
これまでのところ、EIP-1559の基本料金メカニズムは、ネットワークのキャパシティを目標の100%に維持することに成功しています。
時間が経つにつれ、トランザクションの作成者は、取引に必要なガス量を見積もることができるようになってきており、バーンの過大評価を長期的に減らすことにつながっています。
他にも良い改善ありました。基本料金の変動率が高かったのですが、理由は新しいストレージの導入に伴う大量の混雑が原因です。過去には、このために、重要なWindowPostメッセージも値下げされていました。
これらの価格設定の問題に対処するために、Filecoinコミュニティが調査することができるさまざまなアプローチがあります。下記3点を説明します。
・ガス・コントロール・プレーン(Gas Control Plane)
ネットワークの混雑に対処する手段の1つとして、コントロール・プレーン取引専用のガス・レーンを作成し、ブロックチェーンの機能にとって重要な特定のメッセージに、各ブロックのごく一部を割り当てておくことが考えられます。
・メッセージタイプの料金体系
この問題に対処するもう1つの手段は、WindowPostのコストを下げるか、他のメッセージ、特にPre/ProveCommitメッセージのコストを上げることです。
・基本料金の変更率
基本料金が時間の経過とともに急激に変化するということは、料金が完全に選択されていないことを示唆しており、改善によりスームズになる可能性があります。
各種混雑を緩和するために、ガスモデルとは関係のない追加のアプローチの導入も検討していきます。例えば下記です。
・スケーリングの証明
Filecoin の証明メカニズムをスケーリングするためのアイデアには、SNARKのバッチ検証や、前もって行う必要のある検証の量を減らすスラッシュベースの検証などがあります。
・コンセンサスのスケーリング
現在の混雑率を考えると、Filecoinは迅速なシャーディング(訳注:負荷分散方法の1種)を視野に入れる必要がありそうです。
これからの取り組み
Filecoinネットワークがこれまでに達成した結果について、多くの潜在的なデータ分析が行われ、他の研究者やブロックチェーンコミュニティと協力してEIP-1559のアイデアを取り組み、構築していきます。いくつかの可能性のある調査分野には、(現在のモデルには非効率性があると思われる)ガスモデルへのキューイング理論(訳注:日本語では、待ち行列理論。並んで待機する現象を研究する理論)の導入、特定のメッセージやトランザクションのサービス品質の保証、将来の時点で実行可能な暗号化されたトランザクションをブロックチェーンに導入する方法の模索などがあります。
※配信元
コメント